ホームズの仇敵「モリアーティ教授」の真の狙いは犯罪ではない?=竹内良輔・三好輝「憂国のモリアーティ」1(ジャンプコミックス)

2023年3月11日土曜日

憂国のモリアーティ

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 「名探偵」という言葉を聞いて、日本人が思い浮かべるのは「名探偵コナン」と並んで「シャーロック・ホームズ」、それよりちょっと人気の薄いのが「明智小五郎」といったところではないでしょうか。


そして、「名探偵コナン」には「怪盗キッド」、「明智小五郎」には「怪人二十面相」という、宿敵の犯罪者がいるのですが、「シャーロック・ホームズ」の場合は、21歳にして素晴らしい科学論文を発表して、大学の数学教授となるほどの頭脳をもち、「ロンドンの悪事の半分、ほとんどすべての迷宮入り事件の犯人」といわせてのが、「ジェームズ・モリアーティ教授」です。


そんな稀代の大悪党、モリアーティ教授とその一派の「崇高な目的」を果たすための「犯罪」と「大活躍」を描いた、クライム・コミックのシリーズが『竹内良輔・三好輝「憂国のモリアーティ」(ジャンプコミックス)』。


今回はシリーズ皮切りとなる第1弾をご紹介しましょう。


あらすじと注目ポイント


第1巻の構成は


#1 緋色の瞳

#2 グレープフルーツのパイ

#3 橋の上の踊り子


となっていて、物語は1866年のロンドン郊外から始まります。このエリアに住む、モリアーティ伯爵家の男の子が、荷物の発送をしようと、郵便局へ訪れ、そこで小博打をしている男達や街の女たちの相談に気軽にのっている様子がまず描かれます。


帰り際、貴族の使う二頭立て馬車で通りかかった、モリアーティ家の長男・アルバートに乗せてもらい帰宅するのですが、馬車内や屋敷の到着した時の様子で、彼が元孤児で、弟のルイスとともに、慈善活動の一環で、この伯爵家に養子にもらわれてきていて、アルバートの弟・ウィリアムと彼の母は、彼のことを下層階級あがりのくせに、と忌み嫌っているのが描かれています。


一方、長男のアルバートは、階級意識と差別意識の強い両親と弟のことを憎悪していて、さらに、それを当然のこととして受け入れさせているイギリスの貴族制度を嫌っていて、孤児院にいた頭脳明晰な兄弟をモリアーティ家の養子としたのも彼の仕業です。


しかし、その養子縁組は、アルバートの弟ウィリアムと母親の憎しみを招くこととなり、ある夜、二人が兄弟に泥棒の濡れ衣を着せて追放しようとしている現場を見つけ、一線を越えてしまうこととなり・・という展開です。


ここから、イギリスの貴族制度の破壊を企む、ホームズの仇敵・ジェームズ・ウィリアム・モリアーティと彼の兄弟アルバートとルイスの「貴族殺戮」の日々が始まっていきます。


第二話の「グレープフルーツのパイ」は、モリアーティ家の火事から13年後、成長したウィリアムがイギリスの北東部にあるダラム州ダラムにあるダラム大学の数学教授となっているところへと場面が移ります。


ダラム大学は、オックスフォード、ケンブリッジの次に創設されたイングランド三番目の大学で、カレッジ制を採用している名門大学で、2020年の世界大学ランキングでは78位になっていますね。(日本の大学では、22位「東京大学」、33位「京都大学」、58位「東京工業大学」、71位「大阪大学」というランキングになっています)。


ちなみに長兄のアルバートは陸軍中佐としてロンドンの陸軍省に勤務、末弟の類氏は、モリアーティ家の領地や財産の管理をしていることになっています。


そして、ダラムの残り半分を領するダブリン男爵家の高額な地代取り立てに苦しむ農民や町の人の様子を見、当主に子供を見殺しにされた母親の相談を受けて、当主を破滅させることを計画します。その方法はモリアーティ兄弟が自ら手を汚すのではなく、当主の持病とあるフツーの食べ物をつかったある方法で・・ということで詳しくは原書のほうで。


第三話の「橋の上の踊り子」では、ダラムの学生たちもよく出入りする盛り場に酒場の踊り子が、アヘン中毒で朦朧となった状態で橋の欄干から川に落下して死亡するという事故が起きます。


この踊り子には、ダラム大学に通っているスコットランドの名門貴族の息子とできているという噂があったのですが、その息子。ルシアンは事故以降、モリアーティ教授の授業を欠席しています。


大学の事務局にいるベイル主任は、ルシアンは彼の経営する病院に入院しているので心配ないというのですが、そこには何か秘密が隠されているようで・・という展開です。


ああ、いつもの金持ち貴族のドラ息子の不祥事か、と思いきや、もっと巨悪が隠れていた、という展開です。この話を読むと、モリアーティの目的を達するためには、いわゆる宮廷貴族だけではなくて、イギリスを実質的に支配する「郷紳(ジェントリー)」階級もぶっ壊す必要があるように思えます。


レビュアーの一言


この当時、イギリスの貴族はおおよそ400家あったのですが、イギリスの相続制度が、長子が領地や財産の全てを相続する制度で養子による相続も求められていなかったため、他の国ほど貴族の数は多くありません。


分割相続が認められていてヨーロッパ大陸の貴族は、兄弟の数だけ貴族の数も増えていくわけで、フランス革命前のフランスでは、およそ45万人、4000家の宮廷貴族がいたとされていますし、ロシアでは60万人、ドイツでも2万人の貴族階級がいたとされています。


さらにこの時期、インドの領有をはじめ、イギリスは世界各地に広大な植民地を有していて、そこから本国へ流れ込む富は莫大で、まさに少数の貴族=特権階級によって世界の富の多くが所有されている状態であったわけですね。

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