【車椅子の「スラムダンク」】三人の若者のバスケにかける思いは原点から再出発する=井上雄彦「リアル」12~15(ヤングジャンプコミックス)

2023年7月28日金曜日

リアル

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 骨肉腫で右足を切断し、短距離スプリンターの夢を絶たれた「戸川清春」、バイク事故で同乗させていた女性に大怪我をさせて下肢を損傷し車椅子生活にしてしまった、元不良のバスケ青年「野宮朋美」、勉強ができて、バスケ部のレギュラーで女子生徒の人気の的だったのが、自転車泥棒で逃走中にトラックに衝突し、下半身麻痺となった「高橋久信」の3人の若者が、それぞれの「障害」に向き合いながら、車椅子バスケットに関わっていく異色のバスケ漫画『井上雄彦「リアル」(ヤングジャンプコミックス)』の第12弾から第15弾。


前巻まででは、ドリームスの練習姿を見て、車椅子バスケへの興味の湧いてきた高橋と夏美のマンガ家を目指す姿を見て、プロバスケのトライアウトを目指す野宮とバスケットへの情熱を思いだした二人を中心に描かれていたのですが、今回は三人の若者がそれぞれの「壁」に直面し、原点回帰をせまられることになります。


あらすじと注目ポイント


第12巻 戸川はAキャンプに参加し、自らの欠点を自覚する


冒頭は、新メンバーとして「水島亮」が正式に加わって強化練習が開始されています。戸川は初めて加わった日本代表の合宿で自らのバスケット技術の未熟さを痛感したようで、これを乗り越えるために「A-CAMP」というボランティアが運営している車椅子バスケットのトレーニング・キャンプに参加することを決めます。


このキャンプは、かつてアメリカをパラリンピック優勝に導いたことももコーチ「ジャック・ランドール」が直に指導するというレベルの高いもので、戸川はここで絶対的な「個」の力を身につけようと考えているようなのですが、実は彼に不足しているものは・・といった展開です。物語の後半の模擬試合でそれが明らかになりますね。


ちなみに、このキャンプには、幼馴染の安積がスタッフとして参加していて、これは彼女の新たな目標への第1ステップでもあるようですね。このため、タイガースのマネージャー業務をしばらく休みこととなり、友人に代役を頼むこととなるのですが、やってきたのが、高橋の自称恋人の「本城ふみか」で・・といった筋立てです。


一方、高橋のほうはリハビリに励んでいるのですが、両親と彼との関係も子供時代のように「修復」されているようです。さらに、白鳥の「リング復活」に向けてのトレーニングも激化しているのですが、果たしてその望みは叶うのか、といったところです。


第13巻 悪役レスラー・白鳥の「復活戦」はいかに


この巻では、いよいよ「白鳥」のリング復活が描かれます。観衆の大声援と大ブーイングの声に後押しされるかのように、若手レスラーの担ぐ椅子に座った「白鳥」が登場します。彼はリングポストを掴んで仁王立ちすると、長年のライバル「松坂」をにらみつけます。そしてゴングが鳴り、試合が始まると・・といった展開です。


立つのが精一杯な白鳥の「復活戦」の様子と彼とライバル・松坂とのデビュー当時からの回想シーンについては原書のほうでどうぞ。


そして、この試合は高橋を新たな途へ大きくプッシュしたようです。


第14巻 タイガースはオオルリ杯に優勝するが、幼馴染・安積の旅だったショックをどう埋める


この巻では、戸川の加わる「タイガース」は宇都宮で開催されている「オオルリ杯」にエントリーし、優勝をかち取ります。Aカップに参加した戸川も亮も一回り成長してチームへ還ってきたようですね。それを見守った安積は戸川に密かに別れを告げ留学へ、、押しかけコーチの野宮は現在のタイガースの輝かしさとわが身を比べて疎外感を感じています。ただ、彼の場合、立ち直りは早く、ひさびさにあった夏美が、編集部に何度駄目出しされても、路線変更を編集者に勧められても、諦めることなく「王道マンガ」を描き続ける姿に関単に勇気づけられています。


一方、車椅子バスケットを始め、ドリームスに入部した高橋は、さっそくその実力差、地力の差の大きさに直面しています。そして、彼が選択したのは、ドリームスのローポインターのエースとなっている「永井」が15年前に練習していたリハビリセンター内の「悪魔の坂」を使った地獄のトレーニングです。どうやら高橋の車椅子バスケットのかける意欲は「本気」のようですね。


そして安積が留学でチームから抜けた後、空気の抜けたようになっていた戸川とチームメンバーだったのですが、病状がさらに進行している「山内」と会い、彼からタイガース創建当時の話と彼が病気に悲観しながらも車椅子バスケットチークを守り続けた話を聞いて、ジャパンオープンでのドリームスへの雪辱の意欲を高めていき・・という展開ですね。


第15巻 戸川と高橋は失意のどん底から再び車椅子バスケの原点に還る


この巻の冒頭ではジャパンカップに補欠出場することができたタイガースだったのですが、全日本クラスの他チームの壁は厚く、あっさりと負けてしまいます。さらに、タイガースの主力の一人であったナガイがドイツ・チームに加わることとなった上に、戸川は全日本代表候補の合宿のメンバーからも外されてしまいます。失意の戸川が向かったのは母の眠るお墓なのですが、そこでロンドンから一時帰国していた安積の偶然再会し、彼女からある言葉を示唆された言葉は「道がわからなくなったら、原点に戻りなさい」という母の言葉で・・という展開です。


そして高橋のほうは、ドリームスの正式メンバーになり、そこでのレギュラーポジションを目指すのですが、彼らとの差の大きさと自分の体の不自由さに押しつぶされそうになり、リハビリセンターを脱走します。途中、野宿を決めた学校の校庭に近くを通りかかった悪ガキたちにカツアゲされ、ボコボコにやられるのですが、そこに駆け付けてくれたのが「本城ふみか」と路はビリセンターの「三銃士」の残りのメンバーで・・という筋立てです。


彼はここから再び、ドリームス屈指のローポインター「永井」のあとを追っかけていくことになります。


レビュアーの一言


今回では、戸川、安積、高橋がそれぞれの道を踏み出し始め、野宮が:けがをさせた夏美も少年マンガ誌の新人賞の佳作に入選するなどしているのですが、野宮ひとりだけは、プロのトライアウト落選後、方向性がまだ見つかっていない状況が続いています。次巻以降でその方向性が明らかになってくるものと思われるのですが、このシリーズは性急に結末に行こうとするのではなく、ブランクをはさみつつの連載の間に読者自体が、自らそのストーリーを想像していくところが魅力の一つになっているのかもしれません。


ある意味、永遠に完結しない、もう一つの「スラムダンク」でありますね。


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