鹿児島の出身で日本警察の基礎を築いた「川路利良」を中心人物にすえて、ペリー艦隊の来訪から安政の大獄を経て明治へ続く幕末の時代を、「ハコヅメ」の作者・泰三子が、倒幕の片翼を担った「薩摩藩」や「彦根藩」の視点から描いた幕末歴史コミック・シリーズ「だんドーン」の第5弾。
桜田門外の変により、薩摩に帰還した川路だったのですが、幕末の情勢は薩摩を放っておかず、島津久光の上洛を求める声は大きくなる一方で、今巻ではそれに川路と太郎が巻き込まれていきます。
あらすじと注目ポイント
第5巻の構成は
第三十五話 吉野山の半次郎
第三十六話 珍貨を運ぶ珍道中
第三十七話 本当にあったエモい話
第三十八話 バレてはイケない金塊と気遣い
第三十九話 薩摩藩士、異世界紀行密書ン!
第四十話 薩摩を癒す湯の花
第四十一話 疑念を抱け
番外長州編 松の下の若人達
となっていて、桜田門外の変の後、江戸を離れ、薩摩の大久保利通の家で暮らすこととなった「太郎」の様子から始まります。太郎の優しい態度は大久保家にすっかり馴染んでいるのですが、大久保から吉野山に住んでいる「中村半次郎」を家老の小松帯刀の屋敷へ連れてくるよう依頼されます。
実はこの吉野山は山くぐり衆の本拠なのですが、山くぐり衆をまとめていた伊牟田尚平の脱藩後、統制が乱れていて、山へ入ってきた太郎をやまくぐり衆の中でもたちの悪い三人組が捕え、殺そうとしてきます。
ここに居合わせたのが「中村半次郎」で、この三人組を簡単に始末してしまいます。彼の剣の腕は「軒先の雨だれが落ちる前に3回抜刀した」と言われるほどの豪速剣だそうです。(付け加えると、この三人組の死亡は崖からの滑落死ということにされてます)
で、その半次郎に依頼されたのが、このシリーズの主人公である「川路正之進」とともに、島津久光が上洛する際の京で消費する米代を藩内の過激派に見つかることなく下関まで届けることです。小判で運ぶとすると大八車10台分になるため、田の神の像に偽装した金塊を背負って運ぶという段取りです。この任務を二人だけで行かすと仲間割れが目に見えているので、太郎が二人に同行することなります。
この道中で人吉の永国寺の幽霊画に絡んだニセの女幽霊に出会ったり、熊本では有馬新七と偶然出くわした上に、彼の知り合いと偽って無線飲食を繰り返している「草莽の志士」を始末した肥後の川上彦斎と出会ったり、阿蘇で庄内藩の清河八郎と出会ったり、と幕末を彩る有名人物たちに遭遇しています。
一方、薩摩のほうでは久光の上洛に参画しようとする過激派志士・平野國臣と同行してきた伊牟田尚平と大久保利通や小松帯刀が再会しています。すっかり過激派に染まってしまった風を装う伊牟田なのですが、しっかりの薩摩の密偵の役割を果たしていることがわかります。
さらに、彼が関与したといわれる「ヒュースケン事件」の隠された真相が明らかにされています。
巻の後半では、阿蘇山中の積雪の中で離れ離れになった川路と半次郎+太郎なのですが、阿蘇神社で再会を果たすことが出来ます。しかし、半次郎たちを助けたのが、過激派浪士の筆頭の庄内藩の清河八郎と薩摩藩を脱藩し過激派に身を投じた(ことになっている)伊牟田尚平で、川路は薩摩から運んできた「田の神」の中身が金塊であることを覚られそうになるのですが、太郎の機転で救われることになります。
太郎がどんな手管を使ったかは、原書のほうで確認してくださいね。
レビュアーのひとこと
伊牟田尚平が関わったとされる「ヒュースケン殺人事件」は1861年(万延元年)にアメリカ総領事・ハリスの通訳を務めていたへんりー・ヒュースケンがプロイセン公使との会食の後、赤羽からアメリカ公使館のあった善福寺へ馬で帰る途中、暗闇から現れた志士によって脇腹を斬りつけられ、自力で宿舎まで帰るも、翌日死去した、というものです。
ヒュースケンは1856年に来日以来、日米和親条約や日米修好通商条約の締結にあたって通訳を勤めるなど幕末の外交史で活躍した人物です。この当時、新たな条約締結を拒否されていたプロイセンのために助言したり、幕府との斡旋を行ったり、とある意味、フィクサー的な役割も果たしていたように思います。
当時は尊王攘夷が隆盛で、外国人や外国対策を行っていた幕府役人が攘夷志士に襲われる中で起きた事件で、その後の外国人の警護体制の強化に発展しています。
この事件の真相が、本書にいう過激派浪士たちの薩摩藩への突き上げの勢いをそらすためであったり、幕府の外交交渉の邪魔をするため、といったあたりなのかは不明ですが、少なくとも幕府と列強諸国との関係を悪くしたのは間違いないですね。
ちなみに、本書では知日家で人好きのする青年であったとされるヒュースケンですが、日本人の役人に対する態度は無遠慮で、日本人など少しも怖くないという態度で、「自分は外出したい時に外出する」「刃向かう者があればいつでも撃退する」と広言していたようで、こうしたところが襲撃を引き寄せる一因となったのかもしれません。
0 件のコメント:
コメントを投稿