丹沢や雲取山での鮎美の「山ご飯」がお楽しみー信濃川日出雄「山と食欲と私」5・6(バンチコミックス)

2020年11月6日金曜日

山と食欲と私

t f B! P L

 都会でセキュリティ会社の会社員をしながら、休みのときはほとんど「山」に登っているという、「山ガール」と呼ばれたくない「単独登山女子」の日々野鮎美の、単独(ときどき団体)での登山と「山ご飯」を描いたシリーズ『信濃川日出雄「山と食欲と私」(バンチコミックス)』の第5弾と第6弾。


シリーズ最初のころは、人見知りがひどくて、会社の中でも登山趣味を内緒にしていた鮎美だったのですが、会社の先輩の小松原鯉子や派遣社員の瀧サヨリといった山友達もでき、単独登山だけでなく、グループ登山まで範囲を広げていき、「山ご飯」もますます磨きがかかる中、丹沢・箱根・雲取山・立山と有名どころを登山するのが本巻です。


構成と注目ポイント


ぶり大根と牡蠣フライ玉子とじ丼は絶品の山ご飯(第5巻)


第5巻の構成は


47話 玉子の殿さま

48話 その名は、ぶり大根

49話 土鍋を担いできたアイツ

50話 丹沢主脈縦走編① 静かなるツナたらこパスタ

51話 丹沢主脈縦走編② 鹿肉と女子高生

52話 丹沢主脈縦走編③ 鍋焼きうどん、ここにあり

53話 甘じょっぱフレンチトースト

54話 箱根旧街道&外輪山編① L'interieur Croissant

55話 箱根旧街道&外輪山編② 甘酒タイムトリップ

56話 箱根旧街道&外輪山編③ 山ガールとビール飯

57話 桜でんぶのお弁当

58話 友好のローストビーフ


となっていて、最初の二話は、普通なら平地のリビングで食べるものをわざわざ山の上まで運んでの食事です。まず一番目は生卵。これを厳重に梱包して慎重に冬山の頂上まで運びます。


そして、そこでつくるのはさらにありきたりのスーパー特売の「牡蠣フライ」をご飯を敷いたメスティンの上に並べ、生卵をわり入れ、めんつゆをかけまわして、バーナーで熱し、フタをして弱火で数分待って出来上がる「ほかほか牡蠣フライの簡単玉子とじ丼」というもので、これは「冬山の頂上」というシチュエーションがつくる絶品の「山ごはん」です。

そして二番目は冬の北陸の美味「ぶり大根」を山に登る前日につくり、冷えたところをメスティンに入れて一晩冷やしておき、しっかり味をしみさせ、寒さで煮こごりをまとった絶品です。


これをまずそのまま食べ、残りにうどんをいれて火にかけて温めた、「ぶり大根うどん」は山の寒さが絶品の調味料となっていることが想像できます。


そして、この季の冬山の〆は、丹沢山系の単独行です。一泊二日で丹沢の縦走をするのですが、途中の山小屋でごちそうになる「鹿肉の生姜焼き」も野性味あってうまそうなのですが、鍋割山山頂の山小屋での「鍋焼きうどん」は「これを食さずに山ご飯を語るべからずな殿堂入りの逸品」だそうですので、機会があればチャレンジしておきたいものですね。


さらに、春になってからの単独行の「箱根山」は、人里も近く、道も整備されているところが多くて、登山というよりトレッキングの名コースのようです。なので、ここで食するのは温泉街にあるパン屋のクロワッサンとか、甘酒茶屋との力餅と甘酒といったものもあるのですが、やはり「山ご飯」は、半分ぐらい呑んだ缶ビールに生米とビーフジャーキーをしてて炊き込んだ「ザ・ビール飯 ビーフジャーキーMIX」が圧巻ですね。ただ、お味のほうは・・・「?」ということらしいので、試される方はご注意を。


巻の後半では、珍しく単独行ではなく、ツインでのハイキング。鮎美と彼女の母親「猪口いるか」の二人で後巻での「立山」登山に向けた体力づくりを兼ねたハイキングのようですね。この話のご飯は、お母さん手作りの、唐揚げ、玉子焼き、マカロニサラダと桜でんぶでハートを描いた「日美野家定番のお弁当」です。


こういうのは、いつも特徴ある「山ご飯」のでてくる、このシリーズでは珍しいパターンですね。


鬼滅の聖地「雲取山」で山ご飯(第6巻)


第6巻の構成は


59話 男の野営アラカルト

60話 騒乱の雲取山編① 偵察のヨーグルトカレー

61話 騒乱の雲取山編② 夕闇のタコさんウィンナー麺

62話 騒乱の雲取山編③ トメさんのわさび漬け

63話 夏山限定!フルー”酎”ポンチ

64話 真夜中のラタトゥイュ

65話 お母さんと立山編① 甘くない黒部のダムカレー

66話 お母さんと立山編② 炙りチャーシューと中華粥

67話 お母さんと立山編③ ホッとマシュマロinココア

68話 お母さんと立山編④ ご褒美の昆布〆フルコース

69話 風と味噌汁


となっていて、まず第一話は、鮎美の周辺に時折登場する、「イタイ」三毒キャンプ男子の鷹桑クンです。今回は、直火料理やテントを使わないシュラフだけの宿営とか、あいかわらずの「笑える」キャンプが楽しめます。


そして、この巻での単独登山の行き先は、あの「雲取山」です。今、人気絶頂の「鬼滅の刃」の主人公たちは暮らしていた、と擬せられているところですね。この「騒乱の雲取山編」の時期は2,017年頃なので、すでに「鬼滅」は連載が始まっているのですが、まだ、その影響はないですね。この雲取山は東京都の最高峰なのですが、大都会の近くにあるせいで、登山客の多い所らしいです。なので、油断もあったのか、鮎美はテントを忘れてしまうという失態をしでかします。そのせいか、今回の山ご飯は、下見段階での鶏肉にヨーグルトを漬け込んだ「インド風本格ヨーグルトカレー」という絶品はあるのですが、そのほかはタコさんウィンナーのインスタント麺とかスライス餅をいれて温めたアルファ米の赤飯とかちょっと平凡な気がします。


さらに、この巻では、前巻でトレーニングした成果を生かして、鮎美と彼女の母親とのツインでの立山登山が収録されてます。母親の再婚後はちょっと疎遠になっていた「鮎美」なのですが、ひさびさに母娘の絆を確かめる登山、というところでしょうか。ところが、別山から雄山へ向かう稜線上で、迷子になっている女の子を見つけたあたりから、大騒ぎとなりますね。

山ご飯のほうは、レストハウスでの「黒部ダムカレー」とアルファ米を戻すときに水を多めにして乾燥ネギと中華スープの素を入れてガスコンロで煮込み、クコの実と松の実を入れた中華粥とちょっと大人しめです。


今巻では、最終章で、披露をかかえたまま登山した鮎美があやうく転落死しそうになるのですが、彼女の生命を救ったのは・・というところを原書で読んでおきましょう。


レビュアーから一言


基本、アウトドア漫画なので、登山やキャンプのシーンが多いのですが、このシリーズでは時折、山の麓の町の話題が差し込まれる場合があります。

今回は第62話の「トメさんのわさび漬け」で、奥多摩の町の路地裏の焼き鳥屋へ登山帰りに立ち寄ります、この店の客は鮎美だけでラジオの音声だけが響いているという様子がいかにもうらぶれていた感じを出してます。

この店の周辺ももともと石灰の掘削が盛んだったころは賑やかだったようですが、今は登山客が多いといっても「みんな寄らないもの。電車やバスの便が良くなって、街から山へスゥーッと来て、スゥーッと帰っちゃうもの」「あなたみたいに寄ってくれると嬉しいんだけどねぇ」という老店主の言葉には、地域の古くからある商店街の賑わいの維持と交通の整備との関係の難しさを考えてしまいますね。

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