御所から長州追放。浪士組の芹沢鴨、沖田総司に粛清さるーヒラマツ・ミノル「アサギロ」16‐19(ゲッサン少年サンデーコミックス)

2021年4月21日水曜日

アサギロ

t f B! P L

 幕末の歴史を、薩摩の西郷隆盛や長州の桂小五郎といった倒幕勢力や土佐の坂本龍馬といった維新志士たちの対抗勢力として、必殺の剛剣をふるって、京都の街を血で染め「浅葱色の狼」として恐れられた新選組の近藤勇や土方歳三、沖田総司の姿を描いた「アサギロ」シリーズの第16弾から第19弾。


政局のほうも、帝の意思を奉じて、朝廷を専断していた長州をバックにした攘夷派公家が追放され、一挙に勢力地図が塗り替えられることになります。一方、浪士組のほうは、芹沢鴨たち「水戸派」によって主導権を握られ、彼らの商家からの押借りや、乱暴狼藉を制御できなかった近藤たちなのですが、会津の松平容保候の意をうけて、いよいよ水戸派の粛清に向かっていくのが、このタームです。


構成と注目ポイント


第16巻 長州軍、御所から追われる


第16巻の構成は


第96話 帝の言葉

第97話 会津と薩摩

第98話 菓子折

第99話 お宝

第100話 政変の日

第101話 堺町御門


となっていて、前半部分は朝廷で自らの意思が会津候たちに伝わらない帝の焦燥や、馬関でイギリスやフランス艦隊へ砲撃を加えて溜飲をさげたのはいいのですが、列強から反撃を食らって簡単に撃破される長州軍の脆さが描かれます。ここで戦場を見た高杉晋作は

五日にはフランスの軍艦に残る三つの砲台を吹き飛ばされ

上陸してきたフランス兵を前に、長州正規軍の兵は蜘蛛の子を散らすように逃げてしまいよった。 
攘夷、攘夷と勇ましいことを言っておったが、このザマじゃ

と言い放ちます

長州はこの敗戦によって、自らの力を知って、本当の武力を整備していくのですが、京都にいる長州の攘夷派はこういった現実からはまだ遠いところにいるようです。


そして、国許の意見がまとまらず、少ない兵しか派遣できていない薩摩と、大兵を擁する会津が同盟を結ぶのですが、それには

兵の数は・・・百五十、援軍は望めず

こいが京における薩摩の兵力でごわす

という高崎佐太郎の「薩摩っぽ」らしい正直さが寄与したという本シリーズの解釈は日本人好みですね。


そして、このあと会津から公武合体派の中川宮へ届けられた文書を巡って、真木和泉の要請をうけた河上彦斎と沖田総司との死闘が前哨戦となって、会津+浪士組+薩摩と長州軍との御所を巡っての大バトルが繰り広げられるのですが、ここは原書のほうでお楽しみください。

攘夷派のファンの方々には腹立たしいかもしれないですが、ここでは今まで居丈高に振る舞っていた真木和泉や長州の攘夷派が粉砕されるところで、新選組や会津ファンならずとも溜飲が下がるところです。まあ、人間、思い上がっちゃいけないってことを知らせてくれてます。


第17巻 芹沢の乱暴狼藉が極まり、ついに討伐の命令下る


第17巻の構成は


第102話 斬るか?

第103話 角力

第104話 宣戦布告

第105話 答え

第106話 斬るべし

第107話 女


となっていて、前巻の日本の政治情勢を描いていたところからうって変わって、浪士組内部の血を血で洗う主導権争いへと話が変わります。


まず最初は、自分になびかなかった芸姑とおつきの仲居を切り捨てようとしたり、文句をつけてきた水口藩との手打ちの席で、芸姑たちを引き上げさせて恥をかかせたお茶屋をぶっ壊したり、といった芹沢鴨の乱暴狼藉から始まります。


さらには、大阪で興行をうっていた人気力士・熊川を、橋で真ん中をどちらが譲るかの競り合いで斬り殺すといったことや、みかじめ料を拒否した生糸問屋の大和屋を焼き討ちしたり、といったやりたい放題を繰り返します。大和屋の焼き討ちには、愛妾となっている「お梅」の

芹沢はん、天誅組に負けてるやないの

このままやったら、芹沢鴨の名が泣きますえ

といった妙な対抗意識が絡んでいるようです。


ただ、こういう乱暴狼藉は度が過ぎればこれを牽制する勢力がでてくるのは当然のことで、浪士組のバックボーンとなっている会津藩の藩主・松平容保から近藤勇に対し「芹沢を処置せよ」という、いわば「討伐命令」が下されることとなります。


第18巻 水戸派・新見錦切腹。近藤たちの次の標的は芹沢


第18巻の構成は


第108話 雨

第109話 鬼

第110話 刀

第111話 背中

第112話 堕ちる

第113話 対峙


となっていて、会津藩主・松平容保から「芹沢討伐命令」が出たことなど気づかないまま、芹沢鴨をはじめとする水戸派のやりたい放題は続くのですが、まず切り崩されるのは副長の「新見錦」です。


彼は芹沢には無断で商人への軍資金の押借りをして秘密資金を貯めていて、芹沢を粛清して、自分が浪士組を乗っ取る気満々で動き始めます。


しかし、同じ悪党でも芹沢との格の違いは明白で、芹沢の了解を得た土方や沖田たちの手によってあっけなく粛清されてしまいます。


芹沢は芹沢で、自分たち水戸派をじりじりと追い詰め始めている、土方たち江戸派の動きは薄々に感じているようです。


ただ、この動きに表立って対抗するわけでもなく、かといって裏で陰謀を企むわけでもなく、自分の首を狙ってじわじわの迫ってくる江戸派の動きを待っているのは、彼が本質は、滅びることを願っている「破滅派」であるせいかもしれません。


第19巻 水戸派、撲滅。浪士組は新選組に生まれ変わる


第19巻の構成は


第114話 聞こえる!!

第115話 太刀一本

第116話 新選組

第117話 間者

第118話 芝居

第119話 祇園の檻


となっていて、前巻の後半部分から続く、芹沢鴨の「最期」の場面が描かれます。


部下たちはすでにやられるか逃亡してしまい、単身で剣の腕は上の沖田たちに立ち向かう芹沢は沖田を圧倒します。実戦力では「沖田」より上の「力」をもっているようで、このままでは総司のほうが斬られてもおかしくない雰囲気です。


実はこのあたりが、芹沢鴨の「強さ」といっていいのですが、これに打ち勝ったのは、沖田のバックグラウンドにある「試衛館」での様々な経験。シリーズでは、かつて総司が獄死しかけた時に聞こえてきたように、近藤の素振りの「掛け声」が届いてきた、という設定になってます。


この芹沢の死によって、近藤勇たちは松平容保から「新選組」の名前をもらい、新たな出発をすることとなります。


壬生浪士隊のままでは、おそらく内部の権力闘争や、借金を重ねられる商人たちや乱暴狼藉を働かれる町の人々からの反発で、崩れていったと思われますので、水戸派を粛清した近藤たちの行為は「時代」そのものが求めたものといっていいかもしれません。


ただ、このことは長州をはじめ攘夷派の標的となることを意味しています。長州藩の桂小五郎や高杉晋作たちの切り崩し工作や内部へのスパイ潜入による、新選組内部での血を血で洗う粛清の嵐を呼び寄せることになるのですが、それは次巻以降のお楽しみですね。


レビュアーから一言


このタームでは、芹沢鴨の暗殺と新選組の誕生という、このシリーズの大エポックが描かれているのですが、攘夷派の主戦力である長州藩にも大きな思想的変化がおきていることを注目しておきましょう。

薩摩と会津によって御所を追われた後、京都で朝廷への工作を続ける桂小五郎たちに対し、長州の軍師格の真木和泉は「神は我々を応援している」と提案を始めます。

どうも、この人は国際情勢や国内の情勢が頭の中にはいらない人物のようで、長州が帝の反発をかって御所から追放される前も、

やっておることが生ぬるい

ここは一刻も早く挙兵し京へ攻め入るべきと心得まする

といった言葉を吐いているのですが、こうした酔いやすい「思想」から早期に脱却できたのが、長州が倒幕と維新の主役に躍り出ることのできた理由かもしれません。(もっとも、脱出のために、藩内で血みどろの内部抗争を経験していて、かなりの犠牲を出しているのは間違いないですが・・・)

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