落語の一門・阿良川流の真打ち昇進を決める審査会で、審査委員長を勤める大御所から「破門」を言い渡され、それをきっかけに落語を辞めた父親の仇をうつため、その娘「桜咲朱音(おうさきあかね)」が、大看板の落語家となることを決心し、女性としては珍しい落語家の階段を登っていく噺家版サクセスストーリーとなる『末永裕樹・馬上鷹将「あかね噺」(ジャンプコミックス)』シリーズの第13弾。
今巻では、「あかね」の二ツ目昇進を邪魔してきた阿良川全生に対し、喧嘩をふっかけた兄弟子・阿良川まいけるが、ほとんど昇進する者がなく、さらに志ん太たちの「波紋騒動」以来、志ぐま一門にとってはトラウマとなっている「真打ち昇進試験」に挑みます。
あらすじと注目ポイント
第13巻の構成は
第百八席 我慢
第百九席 範
第百十席 一番弟子
第百十一席 軽すぎる
第百十二席 ジリ貧
第百十三席 本来の姿
第百十四席 陰陽
第百十五席 ケジメ
第百十六席 審査結果
となっていて、前巻の最後で「あかね」の二ツ目昇進の推薦の邪魔をした阿良川全生に対し、宣戦布告をした「あかね」の兄弟子・阿良川まいけるの真打昇進へのチャレンジが始まります。
その「まいける」から3月は決算期なので頼まれる仕事が多いので、手伝ってくれと依頼されます。てっきり落語関係のものと思っていたのですが、老人ホームでの歌謡ショーや体育館での傘回し、水産会社の決算慰労会での長唄といった落語に関係ないものばかり。落語をやらないことを質す「あかね」に対し、「まいける」は
それはこっちの都合でしょ
決めてるんだ
”見せたい”より”見たい”を選ぶってね
と答えます。どうやらここには師匠からの指示がはいっているようです。阿良川一門は、「破門騒動」以来、もともと昇進基準が厳しかったものが、さらに厳格になっていて、「大看板クラスの腕前」が求められるようになっているようです。
そして、その昇進の鍵となるのは、同じ阿良川一門の四天王の評価かのですが、「あかね」の二ツ目昇進をめぐって、「まいける」が喧嘩を売った「阿良川全生」です。「あかね」の父親が破門された「真打昇進試験」を思い出させるような煽りをいれて、会場の雰囲気を重苦しくします。
その中で、「阿良川まいける」の見せる芸は・・という展開です。
審査会場の重苦しさを打開するために、「まいける」は長唄やらくすぐりやら軽い芸を繰り出すのですが会場は全く反応しません。「あかね」を邪魔してきていた「全生師匠」はこれについて
軽すぎるよね
どうせ目の前の客にウケることしか考えてこなかったんだろ
今日は真打ち試験
客が求めるのは所謂”本格派”
お呼びじゃないんだよ
私と同じタイプはね
と評価しています。全生師匠もなにか暗い過去を背負ってそうですね。
一向に湧いてこない会場の聴衆に対し、執拗に「軽い芸」を続けるのですが、これは彼の作戦の中。ここで一転、「まいける」は花柳界の入れ込んで遊び歩く若旦那が番頭によって百日間、蔵に押し込められ、それによって馴染みの娘芸者を喪ってしまうという上方噺の「たちきり」へ噺を転じます。
この人情噺は会場の聴衆を感動させ、全生師匠すら泣かせるのですが、阿良川一門の総帥・阿良川一生は
今日の高座・・まあ悪くない、掴めてはいた
だが、足らんな。お前は幾らか取り零した。
掴み切ったとは言えん以上、俺は認めない
と厳しい評価を下します。さて、「まいける」の真打昇進審査の結果は・・という展開です。少しネタバレしておくと真打昇進は審査員の審査結果を集計して合否を決める、ということと全生師匠の評価が肝になります。
レビュアーのひとこと
今巻で「あかね」の兄弟子「阿良川まいける」「真打ち」に挑むのですが、「真打ち」は噺家の最高位で、興行で最後の出番(トリ)で出演する権利が与えられます。
語源については諸説あるようですが、江戸期や明治期は寄席の灯りがロウソクで、最後に出演する芸人がロウソクの芯を打った(火を消した)ため、こう呼ばれるようになった、というのが有力のようです。
真打ちとなる基準は東京の寄席では
・二ツ目として10年から15年の修行期間
・落語協会や落語芸術協会、師匠などの推薦
によって決められています。
ただ、真打ち昇任については過去いろんなことがあったようです。以前は歴代の会長がどんな基準で昇進させるかきめていて、「六代目三遊亭圓生」は実力主義で、「柳家小さん」は入門15年目を目安にした年功序列主義、と方針の対立があったようです。
このため、落語協会の分裂騒動がおき、1980年から1987年にかけて「真打昇進試験」が実施されたのですが、1987年に「林家こぶ平」の合格と「古今亭右朝」の不合格が波紋を呼び、結局、この年をもって落語協会の昇進試験は廃止されてしまいました(ちなみに立川流では継続して実施されています)。
上方落語界では明確な昇任基準もないようですし、「芸人」の世界は、どうもこうした「試験」というのはなじまないようですね。
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