落語の一門・阿良川流の真打ち昇進を決める審査会で、審査委員長を勤める大御所から「破門」を言い渡され、それをきっかけに落語を辞めた父親の仇をうつため、その娘「桜咲朱音(おうさきあかね)」が、大看板の落語家となることを決心し、女性としては珍しい落語家の階段を登っていく噺家版サクセスストーリーとなる『末永裕樹・馬上鷹将「あかね噺」(ジャンプコミックス)』シリーズの第16弾〜18弾。
前巻で、「あかね」の師匠・二代目志ぐまが脳梗塞で倒れ、志ぐま一門は解散、「あかね」は阿良川一生の預かりと決まる中で、父・志ん太の破門の原因の根源でもあり、阿良川一門が落語会の異端児となった経緯が明らかになっていきます。
あらすじと注目ポイント
第16巻 「あかね」は阿良川一門の発祥を知り、阿良川一生の預かりとなる
第16巻の構成は
第百三十五席 弟子入り
第百三十六席 死んでない
第百三十七席 しゃあねえか
第百三十八席 晴れ舞台
第百三十九席 旗上げ
第百四十席 強か
第百四十一席 前座修行閉幕
読切 タタラシドー
となっていて、冒頭では、二代目・志ぐまが、アルバイト先の蕎麦屋に押しかけてきて、若くて、まだ血の気の多い二代目・志ぐまと一生をボコボコにしたヤクザから救い出してくれた初代・志ぐまに弟子入りを頼むところからスタートします。五代目・志ぐまは、当時、柏家生禄と名乗っていたのですが、二人の才能を見抜き弟子にし、二人も一所懸命修行に励み、2年間で70席近く噺を覚えるほど腕を上げていきます。
しかし、二人のデビューに立ちふさがったのが、生禄の師匠で当時の落語会の重鎮である四代目・柏屋生三禄です。伝統と格式を重んじる三禄は、ガラが悪く、ヤクザと諍いを起こした二人が柏家三禄一門となるのが許せず、柏家三禄襲名の条件として、生禄に二人を破門するよう言い渡します。
さて、江戸から続く名跡襲名か二人の弟子か、選択を迫られた生禄は、あっさりと柏家を捨て、途絶えていた明跡を継いで「五代目・阿良川志ぐま」を名乗り・・という展開です(ちなみに、二人は生そば(後の”一生”)、禄ゑん(「あかね」の師匠の志ぐま)。
「志ぐまの芸」がもともと柏家のものだったという、柏家禄郎の言葉の訳がここで明らかになってきますね。
そして「うらら」師匠にさとされた「あかね」は阿良川一生の預かりとなることを承知するのですが、
阿良川一生の条件は、
志ぐまの芸に関する
一切を禁じる
と、もう一つは・・という展開です。
第17巻 三年間のフランス修行を経て「あかね」はさらにパワーアップ
第17巻の構成は
第百四十二席 新たな歩み
第百四十三席 こわいこわい
第百四十四席 在る
第百四十五席 見てなよ
第百四十六席 帰ってきた
第百四十七席 最強かもよ
第百四十八席 二ツ目編 開演
第百四十九席 解く
第百五十席 お門違い
となっていて、前巻で師匠・志ぐまが倒れたため、阿良川一生の預かりとなった「あかね」だったのですが、それから三年間、日本の落語界から姿を消します。実は、阿良川一生からヨーロッパでの武者修行を命じられて、単身フランスに渡り、そこで高座をかけていたというわけですね。
前半では、言葉の壁を乗り越えて、芸をさらに昇華させた「あかね」の奮闘が描かれます。
そして、中盤から、三年間の姿を消していた期間を経て、いよいよ「あかね」が日本落語界に復帰します。しかし、三年間のブランクがあり、前座たちも入れ替わり、「あかね」の以前の活躍をほとんど知らない状況です。さらに、「あかね」と「朝がお」と諍いをおこして冷や飯を食わされていた二ツ目「りゑん」が再びのさばってきていて、「あかね」の復活の邪魔をしようとあの手この手をしかけてきます。
ここで「あかね」がかけるネタは「あくび指南」なのですが、言葉の通じない「フランス」の修行の成果が充分の生かされ、高座は大受けとなります。芸が進化したところでの「あくび指南」の詳細については原書のほうでどうぞ。
後半では、帰国後、阿良川一生から「志ぐまの芸」を探る禁を解かれ、「志ぐまの芸」を目指す道筋が「芝浜」「死神」そしてもう一つの噺を十八番にした先にあると教えられた「あかね」だったのですが、一生は
アレ(志ぐまの芸)は幻だ
たまたま先代の仁と規格が噛み合い、形をなした産物
落語人生を懸ける代物では断じて無い
くだらんモノに囚われるな
と言い放ちます。それに対して「あかね」は「志ぐまの芸」をモノにして、阿良川一門の真打ちになってやると言い返すのですが、どうやらこれは一生の手の内のようですね。
そして、三つの噺の一つ「死神」を十八番にするため、「あかね」は復帰の高座のトリであった、落語界で唯一世襲の名跡を継いでいる「椿家正明(つばきやしょうめい)」に「死神」の稽古をつけてくれるようねじ込むのですが・・といった展開です。
第18巻 「あかね」は「死神」を十八番にするため「作品派」に転向する
第18巻の構成は
第百五十一席 決めごと
第百五十二席 彼の真意
第百五十二席 損なう
第百五十三席 燃えん
第百五十五席 はぁ
第百五十六席 頭抜けてる
第百五十七席 口だけ
第百五十八席 取りにいく
第百五十九席 伸びたね
となっていて、冒頭では、「死神」を十八番にするため、椿家正明に稽古をつけてくれるよう依頼した「あかね」だったのですが、「ムダなことには時間を割かない」のが自分の決めごとだ、と断られます。「あかね」は二つ目昇進が早かった自分への反感ゆえかと思うのですが、彼の高座で明らかにされたのは
即興と台本
私(あかね)と師匠の芸風は対極
だからこそ持ち味を殺し合う
つまり
私(椿家正明)の芸は自由を捨てた先にある
ということですね。さらに、「あかね」の芸には「見(けん)」がない、とも。
これに対し、「あかね」は”作品派」でもやれることを証明する、と啖呵を切ります。そして、それを証明するため、椿家正明が審査員となる二つ目向けの新しい賞レース「瑞雲大賞」にエントリーすることを決意します。この「あかね」のエントリーを見て、阿良川あかねや三明亭からしもエントリーするので、一挙に新しい賞レースが注目の的となります。
椿家正明の指摘する「”見”がない」の意味に悩む「あかね」に、さらに阿良川一生の「瑞雲大賞、客を笑わせずして勝ってみせろ」という命令が追い打ちをかけます。悩み込む「あかね」を元気づけるため、元アルバイト先の居酒屋のマスター・みくちゃんが、夏の新作料理の評価を頼むのですが、その時に
作りたい料理で
お客を振り向かせてこそ料理人ってもんでしょ
という言葉が、「あかね」の迷いを払っていき・・という展開です。
レビュアーのひとこと
「あかね」が十八番にするよう阿良川一生から言われ、椿家正明に稽古を頼む「死神」の話は、失敗続きで借金に苦しむ男が、死神から病人を治すというか死神を遠ざける方法を教わり、医者として成功するのですが、死神との約束を破ったために破滅する噺で、最後の人間の命の長さを現すロウソクが林立する洞窟の中で自分の命の火を長いロウソクに点けかえようとする場面が圧巻です。
この噺は初代三遊亭圓朝の創作噺なのですが、その噺の元ネタはグリム童話の「死神の名付け親」やリッチ兄弟の「クリスピーナと代母」といったヨーロッパの「死神譚」ではないかと言われています。
この噺の落ちは、「あぁ、消える」と呟いた後、演者が高座に倒れ込むことで男の死を暗示させるというのが定番なのですが、命を長引かせることに成功するが結局死ぬパターン、単に火の移し替えに成功するパターン、ろうそくの火が消えても生きているパターンなど様々あるようですね。最後のシーンを差し替えることで成立する改作なので、意外に作りやすいのかもしれません。
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